医学部新5年生/Student Doctorになりました。CBT/OSCEが終わると、医学生は国試までの2年間余裕のある期間が再び訪れます。この期間の過ごし方は医学生によって十人十色であり、それがその後医師人生を大きく左右します。
私は、本期間の1つの目標として、在学中にUSMLE(アメリカの医師国家試験)のstep1~2を取り終えることを掲げ、本格的に勉強を開始しました。
多くの医学生が、臨床留学やUSMLE受験を一度は考えます。しかし、様々な障壁から最終的に受験に踏み切る人はごくわずかです。
そこで将来、受験するかどうかの判断に迷った人の参考になればと思い、私が受験を目指す理由を整理してみました。
基礎医学の総復習と定着
日本では、基礎医学を体系的に復習する機会はCBT(共用試験)が最後になります。しかし、CBTで問われる基礎医学の範囲はごく一部に限られており、その後に復習する機会も少ないため、多くの医学生が3年生までに学んだ内容を忘れてしまいます。
USMLE Step 1は基礎医学に関する試験であり、かつ臨床応用を意識した症例ベースの出題が特徴です。そのため、基礎と臨床のつながりを深く理解し、基礎医学の意義を再認識することができます。医学教育のカリキュラムもアメリカが先行しており、基礎と臨床の統合が進んでいます。基礎医学は臨床の土台であり、せっかく学んだ知識を無駄にせず、実践的に活用できる知識として定着させるために、USMLEは非常に有効な試験だといえます。
日本の国家試験対策に役立つ基礎力の強化
USMLE Step 1は基礎医学といっても症例から病気を診断するプロセスが含まれています。そのため、Step 1を学習するだけでも医師国家試験の学習の一部を兼ねることができます。
またUSMLE Step 2は臨床医学が出題範囲となっており、上記の診断プロセスに加えて、検査や治療の方針が問われます。そのため日本の医師国家試験のレベルをやや超えて学習することになります。もちろん、アメリカと日本では疾患の頻度や重要度が異なるため、完全にカバーすることはできません。また、疾患ごとの深さにも差があります。
とはいえ、治療法の選択以外、病態の理解や症状・鑑別診断といった部分では共通点が多く、国家試験にも十分に役立ちます。実際、Step 2を通過した学生は「国試が簡単に感じた」と語ることもあるようです。
世界標準の英語でのインプット・アウトプットに対応
専門性が高まるほど、海外からの情報収集や国際的な発信が重要になります。USMLEの勉強を通じて、すべての医学用語を英語で理解・表現できるようになります。また、限られた時間で問題に解答するトレーニングを積むため、英語での素早い読解力も自然と身につきます。
日本より優れた臨床分野の存在
「日本の医療も優れているため、アメリカに行く必要はない」という意見はもっともです。実際、日本の悪性腫瘍に対する治療は海外諸国よりもきめ細かく、外科手術では日本人の器用さが高く評価されています。
一方で、アメリカでは移植医療の症例数が圧倒的に多く、それに伴って移植技術も高度に発展しています。また、医療デバイス開発も盛んであり、日本では経験できない最新治療が日常的に行われています。どちらが上という訳ではなく、それぞれの経験は相補的なものになると考えられます。
「アメリカで働きたい」という憧れだけで臨むと、つまづいたりモチベーションが下がった時に簡単に諦めてしまいかねません。アメリカで臨床を行うことで何を得たいのかを自問し、明確な目的を持って臨むことが大切だと考えます。
恵まれた待遇と豊富な症例経験
アメリカでは専門医のプログラムごとに医師の人数が制限されており、症例経験が一定数保証されています。一方、日本では教育文化はあるものの、「上司との関係」「医局の所属先」「病院の配属先」によって経験できる内容や症例数にばらつきが出てしまい、卒業同期の間で大きな差が生じることもあります。
さらに、給与や福利厚生などの待遇もアメリカの方が良く、チーム医療が進んでいるため、医師が雑務に手を煩わせることなく手術などの付加価値の高い分野に専念しやすい分業体制が整っています。
医師としての差別化
USMLEの受験者数は徐々に増えているものの、いまだに少数派です。大学にもよりますが、学年の1〜10%程度ではないでしょうか。取得しているだけで、一定の学力があることの証明となり、マッチングの際に有利に働くことがあります。また、副次的に、医局や病院から留学の推薦を受けやすくなる可能性もあります。過去には、EUの医師免許試験の一部が免除された事例も報告されています。
膨大な勉強時間
単に合格するだけでなく、外国人がアメリカの臨床プログラムにマッチするためには、できるだけ高得点を取る必要があります。さらに試験はStep1、Step2 CK、Step2 CS(※現在はOET)、Step3と複数あり、日本の医師国家試験以上の準備期間が求められます。大学生活の貴重な時間を多く投資することになるでしょう。
高額な受験費用
個人的に費用をまとめてみたところ、以下のような見積もりになりました(瀬嵜先生の「コラム⑦~お金のこと②:USMLE受験にかかる費用~」を参考にしました)。
試験費用だけでも100万円を超え、教材費などを含めるとさらに倍近くに膨れ上がる可能性もあります。
さらに、マッチングを目指す場合、人によっては100以上のプログラムに応募し、1ヶ月ほどかけて面接を受けに全米を飛び回ることになります。
合格しても報われない可能性
Step1は2022年1月から点数表示が廃止され、合否のみの判定になりました。これにより、従来はStep1でアメリカ人平均以上のスコアを取ることで差別化していた日本人受験者にとって、Step2以降や試験外の要素(推薦状、論文、臨床経験など)の重要性が増しています。つまり、実力以外の要素も重視されるようになり、外国人にとっては一層ハードルが高くなったと言えるでしょう。
せっかく試験に合格しても、受け入れ先がなければ水の泡となってしまいます。
このように多くのデメリットがある中で、私はUSMLE Step1〜Step2を在学中に取得することを目標としました。
その最大の理由は、自分の夢である「国際医療分野で外科医として活躍すること」を実現するためです。
以前から国境なき医師団をはじめとする途上国支援や、小児・新生児医療に強い関心がありました。途上国では医療リソースが圧倒的に不足しており、日本では当たり前の医療行為が受けられないケースも多くあります。高額な設備投資を要するロボット手術などはその最たる例です。早期に治療を受けられれば助かるはずの先天性疾患によって、命を落とす子どもたちも今なお存在しています。
その夢を叶えるために、私が現在関心を持っている“ある外科分野”の症例を多く経験できる環境、英語および国際標準の医療環境に身を置くこと、そして場所に縛られない「個人としての実力」を身につけることが、アメリカでの臨床留学によって達成できると考えました。
また、こうした考えに至った背景には、アメリカ・シリコンバレーに留学した経験があります。そこでは、世界中から熱意を持って集まった人々が、自分の夢や目標を追い求める環境が自然と形成されていました。医療とは分野が異なりますが、「海外で働く」という経験が、自分自身の価値観や将来像にどれほどの影響を与えるかを身をもって体感しました。
もちろん、これから診療科を回る中で考えが変わる可能性もありますし、最終的に臨床以外の道を選ぶかもしれません。そのときは、温かく見守っていただければ嬉しいです。
それでもなお、USMLE受験を通して最終的に得られるメリットの方が大きいと私は確信しています。これから益々医師の競争が激しくなりAIが台頭してくる中で、医師として差別化していくことは、自分の生存戦略上とても重要です。卒業までの残された時間をただ国試対策のためだけに使うのではなく、USMLEという目標を通じて、知識を自分の血肉とし、真に頼られる医師になりたいと考えています。
まだコメントの投稿はありません。